<9>遺族年金
亡くなられた方の加入状況などによって、「遺族厚生年金」「遺族基礎年金」のいずれか、または両方の年金が給付されます。遺族年金の受給は年金加入期間25年以上が条件ですが、幸い米国にお住いの方は「日米社会保障協定」及び「カラ期間」のお陰で加入期間が25年未満の方でも受給資格が生じます。遺族年金は残された家族にとり大切な生活資金です。是非制度を理解されておかれることをお勧めします。
1どんな人が亡くなった時に遺族年金は支給されるのか
(1) 遺族厚生年金の受給要件
厚生年金の加入者(被保険者)又は加入者であった方が、次のいずれかの要件に該当する場合、死亡した方によって生計を維持されていた「配偶者」、「子」等が受け取ることが出来ます。
①厚生年金の加入者(被保険者)である間に死亡したとき②厚生年金の加入者であった間に初診日がある病気やケガが原因で、初診日から5年以内に死亡したとき③1級・2級の障害厚生年金の受給者が死亡したとき④老齢厚生年金の受給権者であった方又は老齢厚生年金の受給資格期間をみたして死亡したとき(いずれも保険料納付期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方に限られます)
①は米国在住者で日本の厚生年金加入者は当然に該当します。これ以外に厚生年金加入者であった方がその後米国に移住し、米国年金加入中に亡くなった場合は日米社会保障協定により日本の制度に加入していたものと見なされ遺族年金を支給されます。
②は①で説明した通り、米国年金の加入期間中は条件を満たせば日本の年金制度に加入していたとみなされますので、米国企業に勤務中の初診日の記録を書面で残しておくことは重要です。
③は記載の通りです。
④は遺族年金の受給資格は加入25年以上が条件です。一方米国にお住まいの方の場合は受給資格の算定上「日本の年金加入期間」+「カラ期間」(日本国籍で海外に在住していた20歳から60歳までの期間)+「米国年金加入期間」を合算して25年以上あれば受給資格を満たすことが出来ます(重複する期間は除く)。ですから多くの方が日本の遺族年金の受給資格を取得することが出来るわけです。例えば亡くなられたご主人の日本での年金加入期間が少ない場合でも、米国年金やカラ期間を加算すれば遺族年金を受給できますので是非見直されては如何かと思います。
(2)遺族基礎年金の受給要件
遺族基礎年金は、次のいずれかの要件に当てはまる場合、死亡した方によって生計が維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受け取ることが出来ます。①国民年金の加入者(被保険者)である間に死亡したとき②国民年金に加入していて今は加入中ではないが、60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき③老齢基礎年金の受給権者であった方が又は老齢基礎年金の受給資格期間をみたした方が死亡したとき(いずれも保険料納付期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方に限られます)
なお遺族厚生年金及び遺族基礎年金の受給要件①、②については次の保険料納付用件があります。つまり死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの被保険者期間に、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あることが必要です。
注意していただきたいのは、②の要件です。以前国民年金に加入していたが受給資格期間に満たない方で、年齢が60歳以上から65歳未満である方が亡くなった場合、亡くなられた方が日本に住んでいれば遺族基礎年金を受給でき、海外に住んでいると受給できないことになります。これは、海外在留者の方にとって不公平な要件ですね。この件は別途取り上げみんなで改善を目指しましょう
2.どんな人が遺族年金を受給できるのか
(1)遺族厚生年金を受け取れる遺族の要件
遺族厚生年金を受け取れる可能性のある遺族は、亡くなった人に扶養されていた妻、子、夫、父母、孫、祖父母です。このうち最も順位の高い人(後で説明します)に遺族年金が支給されます。また、「扶養されていた」とは、「一緒に生活し、年収が850万円未満であること」をいいます。遺族の国籍は問いませんが、妻以外の遺族は次の要件も満たす必要があります。①夫 妻の死亡時に年齢が55歳以上であること。ただし遺族年金は夫が60歳になってから支給されます。②子、孫 18歳になった後、最初の3月末までの子または孫。(日本でいえば、高校卒業までの子又は孫)③父母、祖父母 本人死亡の当時、55歳以上であること。ただし、遺族年金は60歳になってから支給されます。
*遺族厚生年金を受ける順位
第1順位 妻、子、夫、第2順位 父母 第3順位 孫 第4順位祖父母の順となります。第1順位の中には①子のある妻②子③子のない妻④55歳以上の夫の順となります。例えば妻が再婚して遺族年金をもらえなくなったときは、子供がもらえるようになることがあります。子と夫の関係も子がもらえなくなったら夫がもらうことになります。第1順位の遺族がいるときは第2順位以下の遺族は年金を受けることはできません。
(2)遺族基礎年金を受け取れる遺族の要件
遺族基礎年金を受け取れる遺族は、亡くなった人により生計を維持されていた「子のある配偶者」か「子供」です。これまでは母子家庭が主な対象の制度で、子を持つ夫が妻に先立たれた場合は支給されませんでしたが、時代の流れに従い、2014年4月からは「子供を持つ夫」つまり父子家庭になった場合も遺族基礎年金を受け取れるようになりました。
また国民年金の独自給付として「寡婦年金」と「死亡一時金」があります。
国民年金の第1号被保険者(簡単に言えば自営業者、非勤労者の学生、無職の方)の遺族である配偶者に子供がいない場合は、遺族基礎年金は支給されません。遺族基礎年金が受けられない場合には「寡婦年金」又は「死亡一時金」が支給されます。寡婦年金の受給資格は①第1号被保険者として保険料を納めた期間(免除期間を含む)が25年以上ある夫が亡くなった場合②10年以上継続して婚姻関係(事実婚を含む)にあり、生計を維持されていた妻であること③死亡した夫が老齢基礎年金を受給してないこと又は障害基礎年金の受給権がないこと。寡婦年金の支給期間は60歳から65歳になるまでの有期年金です。寡婦年金の年金額は、夫が生きていたらもらえるはずであった老齢基礎年金の4分の3です。死亡一時金は、国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた月数が36月以上ある方が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けることなく亡くなったときは、その方と生計を同じくしていた遺族(1配偶者2子3父母4孫5祖父母6兄弟姉妹の中で優先順位が高い方)が受けることができます
死亡一時金の額は、保険料を納めた月数に応じて120,000円~320,000円です。保険料納付月数が36月以上180月未満 120,000円 420月以上
320,000円です。当然ながら遺族が、遺族基礎年金の支給を受けられるときは支給されません。また寡婦年金を受けられる場合は、死亡一時金かどちらか一方を選択します。死亡一時金を受ける権利の時効は、死亡日の翌日から2年です。
3.遺族年金の給付の種類と年金額
(1)遺族厚生年金の場合
*遺族厚生年金の年金額は、亡くなられた方の老齢厚生年金の報酬比例部分の年金額のほぼ4分の3です。
また65歳以上で老齢厚生年金を受ける権利がある方が、配偶者の死亡による遺族厚生年金を受け取るとき以下の①と②の額を比較し、高いほうが遺族厚生年金の額となります。①亡くなられた方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額②「上記①の額の2/3」と「ご本人の老齢厚生年金の額の1/2」を合計した額です。
*中高齢寡婦加算
遺族厚生年金の受給要件で短期用件(①から③)に該当する夫、又は厚生年金の加入期間が20年以上ある夫の死亡時に40歳以上65歳未満の妻が受ける遺族厚生年金には、中高齢寡婦加算(612,000円)が加算されます。ここで注意すべきは、日米社会保障協定の発効により、米国年金加入期間と厚生年金加入期間とを通算して20年以上あれば厚生年金加入期間が20年未満でも加入期間に応じた額が寡婦加算として支給されることになりました。(2005年11月以降)例えば夫の厚生年金の加入期間が10年で米国年金加入期間を加算して20年以上になれば半分の306,000円が支給されます。
*65歳以上になると経過的寡婦加算として妻の生年月日により一定額が支給されます。遺族厚生年金を受けている妻が65歳になり、自分の老齢基礎年金を受けるようになったときに65歳までの中高年付加加算に代わり加算されます。これは、老齢基礎年金の額が中高齢付加加算の額に満たない場合が生じるときに、65歳到達後における年金額の低下を防止するために設けられたものです。
(2)遺族基礎年金の場合
(1)支給額は816,000円+子の加算額(Ⅰ人目及び2人目の子の加算額は234,800円、3人目以降は一人当たり78,300円))(2)子が遺族基礎年金を受給する場合子が一人の場合は816,000円。加算は第2子以降について行い、子一人あたりの年金額は、上記による年金額を子供の数で除した額。
<8>年金受給者が亡くなられた時の手続き
【日本の年金】
年金の受給期間は受給資格を取得した月の翌月から死亡した月までです。年金の支給時期は偶数月つまり2,4,6,8,10,12月の年6回振り込まれます。支払月に前月、前々月の分が支払われます。例えば4月振り込まれるのは2月分と3月分が振り込まれます。4月に死亡された場合、4月分まで支給対象となりますから6月になって4月分が振り込まれることになります。しかし死亡届けが提出されていないと5月分も自動的に振り込まれてしまいます。そうなった場合は5月分を返却する必要が生じ面倒な手続きが発生してしまいます。ですからこの場合は、5月分は振り込まれないように死亡届を早く提出する必要があります。
死亡届が提出されないと最大1年間分の過払いが生じ、その分を日本年金機構に返却する義務が発生します。最大1年となる理由は、毎年「現況届」が誕生月に提出されないと年金の支払いが自動的にストップするからです。
では年金受給中の方が死亡した場合、周りの方はどう対応すればよいのかをご説明いたします。
(1)年金支給を止める為の手続き
年金の支給を止めるために「年金受給権者死亡届」(様式第515号)を年金事務所に郵送するか日本在住の方に届けてもらいます。「年金受給権者死亡届」は日本年金機構のHPで検索すれば簡単に取得できます。届出の項目は死亡した年金受給者の①基礎年金番号、年金コード②生年月日③名前④住所⑤死亡年月日です。死亡届の添付書類として死亡診断書(Death
certificate)の提出が必要です。その際、主要な項目の翻訳を行い、翻訳者の氏名も記載してください。主要な項目とは死亡者の①氏名、性別、生年月日②死亡の日時③死亡の場所④死亡原因です。
予め「年金受給権者死亡届」に①から④までを記載しおき、あとは死亡日だけを記入すれば良い状態で備えておくのも良いと思います。死亡届を提出する先の年金事務所は基本何処でも良いです。年金事務所の住所等の案内は日本年金機構のHPで検索できます。なお日本年金機構のHPにマイナンバーを登録されている方は、原則として「年金受給権者死亡届」の提出を省略できますと説明されています。これは前提として住民票を日本の市町村役場に提出されている方の死亡届が管轄の市町村役場に提出されれば、死亡の情報が自動的に日本年金機構にも共有されるので「年金受給権者死亡届」の提出の必要は無いということです。マイナンバーを日本年金機構に登録されている方でかつ住民票が日本にある方の場合に限られますのでご注意ください。
(2)未支給がある場合
年金を受給されている方が亡くなったときに、まだ受け取っていない年金や、亡
くなった日より後に振込まれた年金のうち、亡くなった月分までの年金につい
ては、未支給年金として死亡された方と生計を維持されていた遺族が受け取る
ことができます。例えば上記の例で4月に亡くなられると4月分まで年金の支
給対象となりますが、死亡届の提出により4月分の受取人が不明のままとなっ
てしまいます。そこで未支給分の請求権利者が未支給請求を行ないます。請求の
権利が出来る方は、死亡した受給権者と生計を同じくしていた配偶者、子、父母、
孫、兄弟姉妹、その他3親等の順になります。又、生計を維持するとは①原則、
同居していたこと②受給対象者の前年の収入が850万円未満であることです。
未支給の請求は未支給年金・未支払給付請求書(様式第514号)で行います。
添付書類として①年金証書・年金手帳②生計同一の申立書他です。年金受給権者死亡届(様式515号)が複写となった書類です。日本年金機構のHPで検索すれば未支給年金・未支払給付請求書および年金受給権者死亡届(報告書)についてその説明と用紙が取得できます。
(3)遺族年金
遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者(現在保険料を払っている方)または被保険者であった方(過去に保険料を払っていた方、年金受給者)が、亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。遺族年金の受給権のある場合は別途手続きが必要となりますが詳細は別途ご説明します。
【米国の年金(日本在住の方の場合)】
米国年金の受給期間は、受給者の死亡月の前月分までです。日本の年金は死亡月まで受給できますがこの点は異なりますのでご注意ください。
米国年金は日本国内では翌月払いですので例えば4月に振り込まれるのは3月分です。ですから4月に亡くなられた場合は4月振込分まで受け取れることになります。死亡連絡のタイミングによって過払い分が発生することになりますが、その際には年金課から過払い分の返金方法について案内があります。
(1)年金支給を止める為の手続き
年金支給を止めるために以下の情報を適宜用紙に記載して米国大使館年金課に郵送します。更に亡くなられた方の除籍謄本を1通同封されてください。
届出の項目は死亡した年金受給者の①氏名②Social Security番号(不明な場合は生年月日)③生年月日④死亡日⑤死亡した場所(都道府県名)さらに連絡される方の⑤氏名⑥連絡先⑦受給者との関係です。郵送先は〒107-8420 東京都港区赤坂1丁目10-5米国大使館領事部年金課です。
(2)配偶者・家族年金・死亡一時金について
要件を満たせば死亡者の配偶者(9か月間以上故人と結婚している)、子供だけではなく親にも遺族年金が支給されます。また葬式費用として$255の死亡一時金が死亡者の家族に支払われます。死亡時から2年以内に申請する必要があります。
遺族が米国年金を受給している場合、上記の年金支給を止める手続きをすれば自動的に配偶者・家族年金から遺族年金への切り替えと死亡一時金支払いの手続きが年金課で行われます。遺族が米国年金を受給していない場合は米国大使館年金課までお問い合わせください(電話03-3224-5000)。
<7>棚ぼた排除規定(WEP)
日本の年金受給者が米国年金の受給手続きをすると、米国年金の一部が、最大587ドル(2024年)毎月減額されることがあります。これはWEP(Windfall
Elimination Provision)というSSA(社会保障庁)の規定に依るものです。米国年金が減額されてしまうと老後の生活設計に大きな影響を受けることになります。それだけにWEPについてよく理解したうえで不当な減額を受けた場合はSSAに適切にクレームをして正しい年金額を確保する必要があります。
WEPの制度は1983年頃に始まったものですが、それが日本の年金受給者にも適用になったのは日米社会保障協定が発効した2005年10月からと推察されます。その当初からSSAは複雑な日本の年金制度をよく理解できず本来は厚生年金のうちの老齢厚生年金(老齢基礎年金は対象外)だけが減額の対象となるにも係わらず長きに亘り国民年金も減額の対象としてWEPを適用し続ける状況が続くこととなりました。
その間WEPの誤適用で減額された方からの悲痛な叫びを受けて取り組んだ“国民年金へのWEP誤適用解消”の是正活動が実りSSAから2022年7月”国民年金はWEPの適用対象外であることが認められました。加えて過去に遡ってレビューが行われ、誤適用があったと判断された方には、WEPが適用された時点に遡って正しい年金額に是正されることとなりました。
長年取り組んできたWEP誤適用問題がこのように100%に近い形で解決出来き、日米で活躍される方々の老後の保障に少しでも寄与出来ることはこの上ない喜びです。振り返れば、官民が一体となり日本の年金受給者の財産を守るために外国の規定を修正出来た事例は多くはないと思います。また今回の一連の修正が、特別立法でなくSSAからの通知一本で実現されたことにも驚いています。Fairnessを大切な規範とするアメリカのなせる業なのでしょうか。
さて是正が決定されてから2年が経過しましたがSSAの現場の対応は新しいルールに従って正しく運用されているでしょうか。その答えは残念ながら新規の申請の場合のみならず過去に遡った誤適用の是正措置でも依然として正しく対応されていないケースが散見されます。
その原因は米国年金受給者で日本の年金受給者数のウエートが少ないことからSSオフィスの窓口担当者がルールを十分に理解していないことがあげられます。年金受給は生涯続きます。これからも日米両国からの年金の受給者数は増加されることが予想されます。皆さんがWEPのルールを正しく理解して対応することが大切です。以下WEPについて説明します。
1.減額の対象
減額対象は老齢厚生年金だけです。国民年金に加えて厚生年金のうち老齢基礎年金も対象外です。WEPの規定には「SSTaxを給与から源泉徴収しない雇用主のもとで勤務した場合(日本で働いていた場合はこれに該当します)、当該勤務から受給する年金受給額の一部に相当する額が米国年金から生涯減額されてしまうことがあります」と表現されています。日本の公的年金制度は、全国民が加入する基礎年金(1階部分=国民年金)と呼ばれる土台の上に老齢厚生年金(2階部分)が上乗せされています。厚生年金は1階部分の老齢基礎年金と2階部分の老齢厚生年金から構成されています。1階部分は居住に基づくものですから、勤労に基づく年金つまりWEPの対象となる年金は2階部分の老齢厚生年金だけです。
2. 減額の対象と国籍
WEPに該当する場合は、米国人、日本人のみならず全ての年金受給者が米国年金の減額の適用対象となります。
3.適用の例外
その主たるものは(1)国民年金Japan’s National Pension(1階部分 基礎年金/Basic Pension)(2)遺族年金受給者(3)SSTaxを社会保障上の高額所得(substantial
earnings)レベルで30年以上支払った方は対象となりません。SSTaxは給与所得に応じて課せられる税金ですが、その給与所得には課税上一定限度のキャップが定められておりその額が社会保障上の高額所得です。2024年のSubstantial
Earningsは31,275㌦です。 (4) 日米社会保障協定を活用した米国年金受給者(米国年金加入期間が40クレジット未満の場合)。
4.減額のプロセス
米国年金の受給申請手続きの為SSオフィスに連絡を取ると、窓口で「貴方は日本の年金を受給していますか」と質問され「はい」と答えると「年金額を証明するものを持ってくるよう」要請されます。
米国在住の受給者は日本年金機構から2か月おきに送られてくる「国民年金・厚生年金送金通知書」を証拠として提出します。通知書には基礎年金(Basic
Pension)と厚生年金(Employee’s Pension)の2か月分の年金額が表示されています。①WEP適用対象は厚生年金欄の金額だけであり、基礎年金はWEP適用外であること②記載年金支給額は2か月分であることをSSA担当者に明確に伝えてください。日本在住の受給者は、「国民年金・厚生年金保険金額改定通知書」をご利用ください。
5.減額金額
減額金額は毎年改定されます。2024年の最大減額金額は月額587ドルです。
一方、Social Security Act 第215条(a)(7)「保証方式」で減額はWEPの適用となる年金月額(老齢厚生年金月額)の半額以上とならないよう保証しています。つまり減額の金額は①減額の最高月額(2024年であれば587ドル)②老齢厚生年金月額の半分①、②のどちらか低い額となります。また、社会保障上の高額所得(substantial
earnings)で20年以上加入された方は、30年に向けて限りなく減額0に向けて減額金額は低減してゆきます。
6.WEPの適用根拠
WEPの適用根拠をSSA(SS Administration)ではWEPの説明リーフレットで次のように説明しています。“社会保障給付金(SS
benefits)は、労働者の退職前収入のある割合を代替(補完)することを意図しています。社会保障給付金の額は、低賃金の労働者のほうが高賃金の労働者よりも高い割合を得るように計算されており、例えば、低賃金の労働者は退職前の収入の約55%に等しい社会保障給付金を得ることができます。高賃金の労働者の平均代替率は約25%です。1983年までは、社会保障でカバーされていない仕事を主にしていた労働者は、長期の低賃金労働者であったものとして社会保障給付金が計算されました。彼らは、自分の収入に対して高い割合の社会保障給付金を受け取るのに加えて、社会保障税を支払わなかった仕事からの年金も受け取るという利点を享受していたのです。連邦議会はこの利点を排除するために、「棚ぼた排除規定」を成立させました。
7.2022年7月WEP規定改定によりSSA内事務取扱ガイドライ(POMS)の見直し
日本の国民年金をWEPの適用除外と判断したことを踏まえて、POMSが改定されました。日本の老齢基礎年金がWEP適用対象外であることの根拠規定です。
① GN 01701.320 社会保障協定締結国におけるWEP適用の例外国とその該当年金制度が規定されており、Japan Japan's National
PensionはWEPの適用外であることが明記されています。
② GN 00307.290 第3号被保険者(厚生年金加入者の配偶者。例えば会社員の妻の国民年金加入者)が受給する国民年金もWEP対象外であると明記されています。
③ GN 01745.020のA. Introduction の 1. National Pension(NP)にNP or “basic”
benefits と明記されている為、Basic Pension=Japanese’s National Pension であることが証明できます。
8.WEPによる減額金額に不服の場合のアピール(不服申立て)方法
減額の確認方法: SSAから米国年金新規受給申請時に日本の年金の受給確認を受けた方は、受給申請前の受給予定額とSSAの年金額確定通知の受給額を比較して減額金額が正しいかどうかご確認ください。もし通知を受けた年金額が正しくないと思われた場合はアピールをして下さい。
アピールの期限:年金額確定通知の日付から65日(60日+郵送日5日)以内にForm SSA-561-U2でアピールを完了する必要があります。このタイミングを逃すと、基本的に減額が生涯継続します。
詳しいアピール方法やSSAから“IMPORTANT-PLEASE READ CAREFULLY”というタイトルで手紙が届いた場合の対応等は私のHPをご参照ください。
<6>日本の年金の振込手数料
日本の年金受給者の方が、年金の振込先に米国の銀行口座を指定した場合、振込まれる都度、銀行でハンドリングチャージ(Handling Charge受取手数料)として20ドル前後を天引きされます。日本の年金は偶数月に年6回振り込まれますので、年間20ドル×6回=120ドルの出費となります。
更に65歳以降は老齢厚生年金と老齢基礎年金の2本立てとなり別個に振り込まれますので120ドルの出費は倍の240ドルとなります。ご夫妻で受給しているご家庭は480ドルの負担となってしまいます。また、日本の銀行とアメリカの銀行で直接送金できない場合(コルレス関係がない場合)、中継銀行を通すことになるのでさらに中継銀行手数料がかかることになります。
ハンドリングチャージの問題は米国にお住まいの年金受給者に留まらず、海外での日本の年金受給者共通の問題です。年金は終生支払われ、更に遺族の方に引き継がれるものです。以下、この対策を考えてみました。
1. 日本の口座に振り込む
日本の年金を日本の銀行口座に振り込むことによりハンドリングチャージを避け、年金額の目減を回避することが可能です。また日本に一時帰国するときの滞在費などに充てたい、円安対策等の事情から日本の年金を日本の銀行口座で受け取りたいと希望される方もいらっしゃいます。なお海外在住の方は日本の年金の振り込み先をゆうちょ銀行(郵便局)の口座にすることは規定上出来ませんのでご注意下さい。。
一方、日本に口座をお持ちで無い場合、日本に居住していない人が、新たに日本で開設できる銀行口座があります。「非居住者円預金」です。日本国籍の方だけでなく、米国籍の方も、日本の年金を振り込むための銀行口座を開設することができます。非居住者円預金はどこの銀行・支店でも取り扱っているわけではありません。昨今は、マネーロンダリングを規制する関係から、一般に非居住者円預金口座の開設は厳しくなってきています。口座開設のため日本に行かれる前に、ご自身なりお知り合いを通じてご希望の銀行・支店が取り扱っているかどうか、必要な書類は何かなど銀行に確認してから手続きに出向くようにしてください。尚、米国在住の方でも日本に銀行口座を残している方は、もちろん年金の振込先をその口座に指定することができますので、引き続き口座を保持することをお勧めします。銀行によっては海外に転出する際に非居住者預金に切り替えておけば海外の住所に各種の連絡が送られる所もありますし、また逆に海外に転出する際には日本の口座を解約しなければならないところもあります。
2. 米国内でハンドリングチャージを取られない銀行口座に振り込む
(1)Credit Unionは地域により徴収していません。例えばBeth Page Federal Credit Union (NY マンハッタン)やNavy
Federal Credit Unionです。(2)カリフォルニア州のUS Bancorpは従前のUnion Bank時代から徴収していませんでした。(3)銀行にとっての取引優良客(例えば一定額以上のCDを購入しているとか)の場合、各種手数料が免除されていますのでお調べください。
3. 海外送金の1本化(制度変更の要請中)
銀行でハンドリングチャージを課すのは已むを得ないのですが、問題は日本から送金する場合、老齢厚生年金と老齢基礎年金を個別ではなく日本国内送金と同様に纏めて振り込めないかということです。これにより費用負担を半分にすることが出来ます。わずかな金額と言えども通算では大変な額になりますし、そもそも海外の年金受給者の年金額は日本にお住まいの方と比べれば小額の方が大半ですからその負担額は決して小さなものではありません。改善を求める受給者からの声も従前から伺ってます。
以上の状況を踏まえ是非とも早期の改善を実現すべく、2023年2月17日厚生労働省年金局を訪問し1本化の申し入れを行ないました。その際、“日本国内が1本で送金されているのだから、海外も1本で送金されるのが現実的。2本立て送金には問題がある”との力強い発言がありましたので、いずれ予算が確保されシステムの改善が図られるものと期待してます。改善の進捗状況の確認はしてますが、検討のスピードを速めて頂き海外での日本の年金受給者の方々に吉報を早く届けて頂きたいと願ってます。状況によっては皆さんのお力をお願いすることも想定されますのでその節は宜しくお願い致します。日々の暮らしで不都合に感じることを一つ一つ改善して少しでも暮らしやすい生活を実現していきましょう。
<5>年金と「戸籍」「住民票」「マイナンバー」
私たちは、日頃の生活の中で戸籍や住民票が常時必要となることはありませんし、海外で生活しているとその必要性に触れる機会は少なくなります。それだけに日頃からその内容、役割を理解しておくことをお勧めします。
戸籍は、日本国民の国籍と親族関係を登録公証する唯一の公文書で、社会生活上、なくてはならない重要な役割を担っています。因みに、米国には戸籍はありません。「家」を中心とする日本と、「個人」を中心とする米国との違いなのでしょう。ですからアメリカ市民権の証明は「出生証明」か「帰化証明書」で行われます。
戸籍制度は、出生から死亡に至るまでの身分関係を「戸籍」という公文書に登録して、これを公に証明することを目的にしています。戸籍謄本(抄本)は、婚姻・出生の届出や日本国の旅券の発行等の際、身分関係の確認手続きにはなくてはならないものです。
例えば、親の遺産の相続手続きの際に、子供として相続人であることを証明する場合や年金関連では、加給年金の請求手続きの際夫婦関係を証明する場合、又、夫の死亡後、妻が遺族年金の受給者であることを証明する手続きをする場合など戸籍により証明します。
全ての日本国民は、日本国内に居住するか否かにかかわらず、出生、婚姻、死亡といった身分事項を戸籍に登録することになっています。将来の年金申請や遺産相続等に備えるためにもご自身の本籍地、戸籍の筆頭者はどこかに記録しておくことをお勧めします。出来ればご自身の戸籍謄本をコピーでも良いので保持されて置けばいざという場合安心です。
海外在住の皆さんが、わざわざ日本の本籍地の市町村役場に届を出さなくても済むよう、領事館では各種届を受け付けています。海外にお住まいの場合、主な届出の提出期限は3ヶ月以内となっていますが、特に「出生届」(出生後3ヶ月以内)、「婚姻に伴う氏の変更届」(結婚後6ヶ月以内)、「離婚に伴う氏の変更届」(離婚後3ヶ月以内)については、それぞれの期限内に届出を行わないと、国籍を失ったり、家庭裁判所の許可が必要になる場合もありますのでご注意下さい。
また、戸籍と住民票は全く別のものです。居住地を登録し、地方自治体との関係を明示するのが住民登録制度です。居住地は住民票と関連付けて戸籍の附票に記載されており、居住地の追跡に利用することができます。日本から米国に移住する際、市町村役場に転出届を提出しておけば附票に出国年月日が記載されます。日本の年金手続きの際に、実際に保険料を支払った期間だけでは受給資格の10年を満たさない場合、カラ期間(20歳から60歳まで日本国籍で海外に在住した期間)を加算して10年以上の加入とすることが出来ますが、その際、附表によりカラ期間の証明を簡単にすることができます。
年金と住民票との関連で最近見受けられるのが、国民年金加入無効問題です。
日本国内で国民年金に強制加入されていた方が海外に転出し国民年金に継続加入したい場合、任意加入を選択できます。その場合、日本出国時に住民票がある区市町村の役所の住民課等に国外転出届を提出後、別途国民年金課に行って強制加入から任意加入への変更を届出する必要があります。
国外転出時に強制加入から任意加入への切替えの手続をすることなく国民年金の加入を継続すると、国民年金法第9条2項(日本国内に住所を有しなくなったとき加入資格を喪失する)に基づき国外転出による住民票の除票時に遡り加入資格喪失となってしまいます。この点は注意する必要があります。
又、相談が多いのは国民年金の保険料未払いの督促状の相談です。日本出国時に転出届を提出せず渡米すると、出国後も住民票はそのまま残っていることから日本に住んでいるとみなされます。日本在住者は会社に勤務して厚生年金に加入していない限り、国民年金は強制加入です。そこで国民年金の保険料の未払い分の督促が行われたわけです。また住民票が残されていると国民年金に加えて、国民健康保険料、40歳からは介護保険料の支払い請求が出国時に登録されていた市町村役場から実家などに送られてきますからご注意ください。
なお在留届と住民票は連携されていません。日本に住んでいる時は市町村役場に住民登録を行います。米国に移住したら大使館、総領事館に在留届を提出すれば日本の住民登録と同様の効果があると思われがちですが、在留届は残念ながら日本の住民登録とは連携されていませんのでご注意ください。
一方、2024年5月27日にマイナンバー法が改正されました。これまでは折角日本でマイナンバーカードを申請取得しても、海外に出国する際に転出届を提出するとカードは無効になってしましたが、今後カードは海外に転出しても失効することなく継続して利用可能となりました。また在外公館でのマイナンバーカードの申請や受け取りも可能となりました。日本年金機構では、マイナンバーを利用することにより、年金相談や照会、各種届出の省略、各種届出時の添付書類の省略等が可能となっています。今後、海外に住む日本人にとり、マイナンバーによる行政手続きの効率化と利便性の向上が期待されます。
米国で安心して海外生活を送るためには、日本と米国の行政のルールを正しく理解しておく必要がありますね。
<4>年金受給・幸せの方程式
日本の年金を受け取るには、国民年金・厚生年金・共済年金の加入期間を合計して10年以上ないと、原則として年金の受給資格はありません。
実は日本の年金の受給資格は2017年までは年金加入期間25年以上でした。その為海外に移住する際、将来日本の年金に再加入して加入25年の受給資格を取得することもないだろうということで、それまで加入してきた年金を一時金で受取(現在制度は廃止)られる方が多数いらっしゃいました。
その後時代は変わり、今では海外にお住いの方は日本の年金が掛け捨てになってしまうことは殆ど皆無と言ってよいほどになりました。その最大の理由は、少しでも無年金者を減らし年金受給者を増やすために2017年8月から受給資格が加入25年から10年に短縮されたことです。加えて日本で短期間でも年金に加入した後、米国にいらっしゃった方には幸せの方程式が用意されているのです。
その方程式とは、「日本の年金加入期間」+「カラ期間」+「外国(米国)年金加入期間」の合計が10年以上あれば日本の年金の受給資格を得ることが出来るということです。
注意点は.....
(1)この3つの期間は重複することはできません
米国年金加入期間のうち、日本の年金にも加入していた期間は計算上「日本の年金加入期間」に含まれ、「米国年金加入期間」から除かれます。
(2)年金額はあくまでも「日本の年金加入期間」つまり主に実際に年金保険料を支払った分だけが反映されます
(3)遺族年金の受給資格はこれまで通り加入25年が必要です。ですから年金の受給申請時に、できる限り受給資格期間25年以上を幸せの方程式を活用して目指すことをお勧めします。米国滞在中、国民年金に任意加入した期間は、当然「日本の年金加入期間」に入ります。
(4)カラ期間(=合算対象期間)とは日本国籍で20歳から60歳まで海外に在住していた期間のことで、年金額には反映しないという意味でカラ期間と言います。このカラ期間をまず「日本の年金加入期間」に加算して受給資格の有無が算定されます。カラ期間の証明方法で一番簡単なのは戸籍の附表です。日本を出国するときに転出届を提出しておけばその記録が附表に掲載されます。
附票に転出時点が記載されていない場合は出入国在留管理庁に出入国記録に係る開示請求を行います。ここで注意する点は、日本年金機構はカラ期間を計算する時には日本を出国した1年後からカウントを開始するということです。毎年日本に一時帰国しているとカラ期間が計算されないということも起こりますのでご注意ください。
(5)「外国年金加入期間」です。日本では社会保障協定が2000年2月ドイツを皮切りに現在24か国との間で発効済みです(2024年4月1日現在)。協定の目的は①社会保障制度の2重加入防止②年金の掛け捨て防止の為です。この掛け捨て防止策とは、お互いの国の年金加入期間を年金受給資格算定上、期間通算できるようにすることで、年金を受給し易くして掛け捨てを防止しようとするものです。つまり滞在国の年金加入期間を日本の年金加入期間に加算して10年以上になれば日本の年金が受給できます。逆に滞在国の年金加入期間に日本の年金加入期間を加算して滞在国の年金受給資格期間をクリアーすれば滞在国の年金も受給できます。なお、発効済み24か国の内4か国(英国、韓国、イタリア、中国)はこの期間通算の適用外ですのでご注意ください。
具体例として米国の場合を取り上げます。
①日本で5年間厚生年金加入されたAさんが55歳で渡米され58歳で米国籍を取得された場合、米国で働かれた場合と働かれなかった場合を方程式に当てはめて比較してみます。
日本の年金加入期間は5年間、カラ期間は55歳から57歳までの2年間で日本の年金受給資格算定期間は合計7年となります。もしAさんが米国で勤務され米国年金に3年以上加入されていればその3年を加えることにより10年以上加入となり受給資格を満たします。勤務されない場合は7年止まりで日本の年金の受給資格は取得できません。またAさんの米国での勤務期間が5年を超えればその時点で日本の年金加入期間5年と米国の年金加入期間5年を足して10年(40クレジット)以上となり米国年金の受給資格も獲得できます。米国年金受給資格の算定上、日米の年金加入期間の通算を行う場合は米国の年金加入期間は最低6クレジット(約1年半)以上が必要となります。「カラ期間」は使えません。
②米国で働いていた夫の突然の死去に伴う遺族年金受給の例です。
夫は日本の厚生年金に8年加入後渡米。米国年金は20年加入済みで勤務中に死亡しました。一般的には日本の年金加入期間が10年無いので日本の年金受給は諦める方が多いのですが、そこで幸せの方程式で8年+20年=28年となり日本の遺族年金の受給資格である年金加入期間25年をクリアーし8年分の遺族年金を受給できます。
(6)日本に住んでいると年金は強制加入です。会社に勤務される方は厚生年金、公務員の方は共済年金、それ以外の方は国民年金に加入します。海外に居住するようになると、加入(国民年金)は任意となります。
海外に転出されると大半の方は、日本の年金とは縁遠くなってしまいます。しかし年金額を増やしたい場合は、日本国籍であれば海外から任意加入の国民年金に加入することが出来ます。国民年金はその費用の半分は日本国が負担しており非常に有利な制度です。また、日本の年金は受給条件さえ満たせば国籍に関係なく受け取ることが出来ます。年金は老後の「幸せの黄色いハンカチ」です。制度をよく理解して備えられることをお勧めします。
<3>日米社会保障協定でもらい易くなった日米年金
日米社会保障協定は、①社会保障税の二重払いの回避②年金の掛け捨て防止の目的で2015年10月に発効しました。①は、派遣期間が原則5年以内の米国滞在であれば、日本の年金事務所で予め「適用証明書(Certificate
of Coverage)」を取得しておけば、引き続き日本の厚生年金、健康保険に加入継続でき、米国の社会保障税は免除となり二重払いが回避されます。②は、日米の年金の加入期間を、日米の年金受給資格の算定上相互に通算出来るとうものです。協定が発効されるまでは日本の企業は派遣社員を米国の社会保障制度に加入させ、一方で日本の社会保障制度にも継続加入させていましたので、この協定によりかなりの経費負担減となりました。
一方、当時の派遣社員の方の駐在期間は3年から5年位で折角米国年金制度に加入しても年金受給資格である加入10年(40クレジット)を大半の方がクリアーできず掛け捨て状態となっていました。そんな中、協定が発効し多く駐在員経験者にとっても朗報となりました。例えば米国年金に5年間加入して日本に帰国された方も、日本の年金の加入期間を加算することにより受給条件40クレジットをクリアーし、ご自身の支払われた5年分の年金を受給できるようになりました。
日本の年金受給条件は2017年8月からはそれまでの加入期間25年間から米国並みに10年に短縮されました。日本の年金に20年間加入していても5年足らず受給に至らなかった方の場合は米国年金の加入期間をそれに加算することにより25年をクリアー出来て喜ばれるケースもあったわけです。10年に短縮された以降は日本の年金加入者にとり米国の年金加入期間を活用して受給資格を得る必要性は薄れたと言えるかもしれませんが、ここで忘れてはならない米国年金加入期間の活用のメリットがあります。それは日本の遺族年金の受給資格はこれまでと同様25年以上の加入期間が必要であるということです。その場合米国年金の加入期間を加算することにより25年以上となれば、遺族年金の受給資格を獲得できるわけです。日本で働かれていたご主人が米国で亡くなられた場合も、日本の年金加入期間が少なかったので日本の年金申請を諦めていた方の場合も、米国年金加入期間を加算して日本の遺族年金を受給出来たケースもあります。周りにこんな方がいらっしゃれば是非教えてあげてください。
また加給年金の受給資格は厚生年金の加入月数240ヶ月(20年)以上が条件ですがこの期間の計算上でも米国年金加入期間を加算することが出来ます。加給年金額は生年月日が昭和18年4月2日以降の場合408,100円ですから決して見落とすわけにはいきません。
この協定でよく質問があるのは“私は日米両国の年金に加入しているが、将来受給する場合は両国の年金加入期間を通算した上でどちらの国の年金を選択するのですか”と言った趣旨の問い合わせです。日米両国の年金制度は基本それぞれ独立した制度です。それぞれの国の年金受給の為の加入期間を満たせば年金はそれぞれの国から独立して受給できます。例えば日本の年金の加入期間が10年以上あれば米国年金の加入期間をみなしで加算しなくても、言い換えれば協定を活用して米国年金の加入期間を加算しなくても日本の年金は受給できます。協定を活用して年金の受給資格をクリアーするのはどちらかの国の年金加入期間が受給するために不足している場合です。
例えば年金の加入期間が日本4年米国6年の場合、このままでは両国の年金は受給出来ません。その際、協定を活用して相互の年金加入期間を通算すれば4+6、6+4で加入10年以上(40クレジット以上)となり4年分の日本の年金と6年分の米国年金が受給できるわけです。協定の内容をよく理解して老後に備えましょう。
<2>米国外に滞在した場合の米国年金受給への影響
正しい情報が伝わらず、米国年金受給者の方が困惑されているテーマである「米国外に滞在した場合の米国年金受給への影響」について説明いたします。
実はこれまでに問い合わせが多い相談の一つが、日本帰国に際し米国年金が引き続き支給されるかどうかソーシャルセキュリティー(SS)オフィスに問い合わせたところ、次のような回答であったが本当かというものです。
「米国を6ヶ月以上離れると米国籍者でない限り年金は支払われない」「日本でも継続して米国年金を受給できるが、6か月毎の米国入国が条件である」「米国年金は、米国籍があれば100%支給されるが、グリンカード保持者の場合は25%減額される」「米国籍者やグリンカード保持者以外には米国年金支給は支給されない」というものです。こういったSSオフィスの回答はすべて間違いです。
最近の事例では、グリンカード保持者のAさんから、昨年ほぼ1年間日本に滞在しその後ハワイに戻るとソーシャルセキュリティー(SS)オフィスから“貴方は米国籍ではないので海外にいた期間は年金が受給できない。昨年受け取った年金の半分を返金せよ”というという手紙が届き当惑され相談がありました。AさんはSSオフィスで受給手続きをした際、米国を出国する時は書類で届けるように言われていたので日本に行く際出国届を提出しハワイに戻り帰国の報告をしたところその1週間後にその手紙が届いたと言うことでした。
残念ながらこの様なSSオフィスのいい加減な対応は、全米に及んでいると思われ、しかも、かなり以前から現在まで繰り返されています。米国年金の受給資格を維持するため仕方なく米国籍を取得された方が少なからずいらっしゃいます。現在も年金のために米国籍を取得してしまったと残念がる方が引き続き発生しています。
何故このようなことが生じてしまうのかについて考えて見ます。
米国SSA(米国社会保障庁)は米国外滞在者に対する米国年金の支払いについて{EN-05-10137 - Your Payments While You are Outside the United States (June
2020) (ssa.gov)}次の様に説明しています。
(1)米国籍者の場合、受給資格さえあれば米国外に滞在していても米国年金を支払います。(つまり原則、米国籍でないと年金は支給されないということです)但し、あなたが次の国の国民であるなら、米国外にどれだけ滞在しようと、受給資格さえあれば米国年金は引き続き支払われます。(例外国)日本、オーストリア、イスラエル、フランス、韓国等21カ国 EN-05-10137の5ページ3.を参照。
(2)あなたが米国籍者でなく、日本、フランス、メキシコ、ブラジル等77カ国の国民である場合、6か月以上米国外に滞在した場合、次の例外国を除き、米国年金の支払いは米国を離れた6か月後にストップします。(例外国)現在、米国が社会保障協定を締結している国 日本、オーストラリア、フランス、韓国等21カ国の居住者(Residents)である場合。EN-05-10137の8ページ6.と10、11ページに協定締結国のリストを参照。
以上から、日本国籍者は日本に住んでいても米国年金の受給資格さえあれば、米国年金を受給できるということです。そして年金受給者の当惑の原因は、SSオフィスの担当者がこの例外規定を理解しないまま原則だけを相談者に伝えた結果ということです。
しかしながら懸念されることは、その様なSSオフィスの窓口担当者の不勉強にとどまらず、SSAの本部の対応も100%正しくは行われていないということです。
今回の相談者の方にはすぐクレーム(Form SSA-561-U2 REQUEST FOR RECONSIDERATIONを使用)を提出するようアドバイスをしました。
老後の生活の基盤である年金の制度については、正しい理解のもとに対応してもらいたいものです。
<1> 日本の年金の課税
日本の年金の申請中や受給中の方から、「日本の年金の課税は日本か米国か」「日本の年金は日本の銀行口座に振り込まれているので、米国では課税対象外と考えてよいか」「日本年金機構から、租税条約に関する届出書を提出するようにとの連絡が来ているがどうしたらよいか」というご質問を良くいただきます。
米国に居住し日本の年金を受給している方の年金所得は、日米租税条約により居住国である米国で納付と定めれています。年金が日本の銀行口座に振り込まれていれも、米国に住んでいる限り米国で申告となります。一方、年金支給のたびに所得税が源泉されるためそのままでは二重課税となってしまいます。それを避けるために一定の手続きを踏めば、日本での源泉所得税が免除されます。
1. 源泉所得税が免除される為の手続き方法
「租税条約に関する届出書等」の書類を日本年金機構に提出します。具体的には① 租税条約に関する届出書 ②特典条項に関する付表 ③居住者証明書(U.S.
Residency Certification、IRS発行Form 6166)の3種類です。①②のFormは日本年金機構のHPから取得できます。居住者証明書はIRSのForm8802(IRSのHPから入手可能)に必要事項を記入して申請します。
2. 書類の提出時期
これらの①~③の書類は、日本の年金を請求するとき、及びその後3年ごとに日本年金機構へ提出することになります。これらの書類を提出しない場合は、日本の税法に従って年金の支払いごとに所得税が源泉徴収されます。源泉徴収されても後日①~③の書類を提出すれば、その後の源泉徴収はなくなります。すでに徴収された所得税については、還付の手続きも可能です。
しかしながら実は、米国にお住まいで日本の年金受給者の大半の方は、届出書の提出の必要ない方です。その理由は以下の通りです。
3.「租税条約に関する届出書等」の提出が省略できる場合があります。
年金額が源泉所得税を徴収されない金額の方については提出を省略することができます。提出が省略可能な源泉徴収されない年金額は(1)65歳未満の方・・年額60万円未満(2)65歳以上の方・・年額114万円未満(老齢厚生年金・老齢基礎年金合計)。年金を受給している方については、3年ごとに日本年金機構から書類提出のお知らせが届きますが、年金額がこの基準以下であれば、源泉徴収はされませんので、「租税条約に関する届出書等」の提出の必要はありません。この省略によりForm6166の作成費用$85と手続きの手間が節約になります。
65歳未満では提出不要の方でも、65歳になると老齢基礎年金が支給開始となりますので年金額が増えます。このために提出しなければ源泉徴収される場合もありますのでご注意ください。
日本年金機構から書類の提出を求められた時は、ご自分の年齢と年金額を確認し、提出が必要かどうかを判断することが大切です。提出の省略に該当される場合は、「租税条約に関する申立書」を提出するか、“年金額が源泉徴収対象額以下なので、租税条約に関する届出書等は提出しません”と言う申立の手紙を添え、日本年金機構に返却してください。
申請手続き中の方から、自分の年金額は少額なので「租税条約に関する届出書等」の提出は必要ないと思うが、年金事務所の担当から強く提出をもとめられ、提出しないと申請が進まず困惑しているとの相談が以前から少なからずあります。これは年金事務所の担当者の理解不足によるものです。その場合は「租税条約に関する申立書」を提出して下さい。
4.課税額の計算方法
源泉課税は年金額が60万円か114万円を超える金額に対して20.42%(0.42%は復興特別所得税)が課税されます。例えば65歳以上で年金額が120万円の方の場合は120万円から114万円を差し引いた6万円に20.42%の税率を乗じた12,252円が年間の課税金額となります。実際は2か月に1回の支給の都度源泉されますので支給時の源泉税の計算は20万円(年金支給額)―19万円(控除額)=1万円 1万円×20.42%=2,042円となります。
5. その他 ①遺族年金・障害年金は非課税ですので、租税条約の手続きは不要です。なお米国の遺族年金は非課税扱いではありませんのでご注意下さい。②また、国家公務員・地方公務員の退職共済年金につきましては租税条約上の源泉徴収免除の取り扱いはありません。年金額が基準を上回れば源泉徴収されます。