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『週刊NY生活』(2017年11月11日付け)掲載記事全文

 

米国在住の日本の年金受給者を悩ます3つのハザード

米国にお住まいの日本の年金受給者を悩ます3つのハザードについて皆さんと問題意識を共有し、問題が改善の方向に向かうよう、ご一緒に取り組んで行きたいと願っています。以下内容を説明いたします。

1. WEP(Windfall Elimination Provision)

最大のハザードです。米国年金を受給する際、日本の年金を受給していると米国年金の一定額が減額(2017年度最大月額442.5ドル)されます。このことを規定した規則がWEPです。勤労中の給与に対してSocial Security(SS) Taxを支払っていなかった場合、ペナルティとして減額されるというものです。WEPについては、10年以上前から全米の年金受給者の方から怒りや義憤の声を頂いています。日本で働いていた時に、自分と会社で拠出した年金が何故減額の対象となるのか、米国政府は関係ないのに容認できない等々。

適用の例外として勤労に基づかない国民年金、遺族年金、SSで規定する高額収入(substantial earnings)で30年以上SSTaxを支払われた方は対象外です。にもかかわらず、SSの窓口で国民年金の受給者の方がWEPの対象となってしまい多額の減額対象となり、その是正のお手伝いをすることが少なからずあります。しかしながら最近その是正が難しくなる傾向にあり憂慮していた所、ある相談者からの減額理由の質問に対するSSからの返答レターを読んで驚くと共にこれは何とかしなくてはと強く感じた次第です。そのレターは次の通りです。

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ソーシャルセキュリティのプログラム運営マニュアル規定(以下、POMSと表記)上の“日本の制度下の保障と掛け金”というタイトルの項目GN01745.015は、一般に公になっています。その規定は、日本の年金制度は2層構造になっていると述べています。国民年金(NP)の保障は日本における居住を基に、一方、被雇用者年金プラン(EPI)と国営の共済組合の保障は、働く人達の収入に基づいて、掛けられています。

POMSガイドライン上の「外国の年金の証明と棚ぼた排除規定(WEP)」というタイトルの項目GN 00307.290は、一般に公になっています。この手引きは、勤労以外(例:居住や掛け金)に基づくWEPの対象とならない年金がある9カ国をリストアップしています。しかしながら、日本の国民年金は、WEPの対象とならない年金として、このリストの中に含まれていません。

POMSガイドライン上の項目GN 01701.320は、“社会保障協定の国々の内、棚ぼた排除規定(WEP)を引き起こさないタイプの年金”というタイトルで一般に公になっています。その項目には、WEPの対象とならないタイプの年金がある7カ国が、リストアップされています。米国と日本は、社会保障協定を締結しましたが、日本は、WEPの対象とならないタイプの年金の国として、このリストに掲載されていません。

ソーシャルセキュリティは、“世界に跨るソーシャルセキュリティプログラム”という題名の文献を出版しています。アジアをカバーした最新号は、2014年に出版されました。日本についての記載事項は、“日本の社会保障制度は、国民年金制度(NP)に基づく一定額給付金と、被雇用者年金プラン(EPI)に基づく収入に関連した給付金から成り立っている”と述べています。しかし、“世界に跨るソーシャルセキュリティプログラム”と言う文献は、情報提供の目的の為のみの出版物として捉えられており、決定を下す為のガイドラインの一部ではありません。

2013年8月に、我々の事務所は、メリーランド州ボルティモア市にある我々の本部に対して、勤労ではなく居住に基づいている日本の国民年金は、WEPの対象とならない年金のタイプに含めるべきだと、POMSガイドラインの改定を推奨する提案をしました。本部が日本の国民年金はWEPの適用となる(OR対象となる)という2006年度始めの決定を見直した結果、その決定は依然として正しいという事になったと知らされました。

日本から国民年金と被雇用者年金の両方からなる年金を受け取っているもう一人の退職保険受給者(あなたの様な)が、日本の総年金額の内、国民年金部分が、WEPによるソーシャルセキュリティ退職給付金の減額対象になるべきでないとして、2016年6月23日付で、再考申請を提出しました。

我々の事務所は、国民年金について、再度、本部に連絡を取りました。本部は、この件について、再び日本政府から追加ではっきりさせる証拠を得る事を含め調査を行いました。そして、日本の「国民年金」はWEPの対象とならない年金としてリストに載っていないという理由から、私達の手続きは正しかったと言う結論に至ったという事を後日、本部から知らされました。

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上記レターを読むかぎり、日本政府に対して“POMSガイドライン上のGN 00307.290にある9カ国、及びGN 01701.320にある7カ国に日本の国民年金も追加”すべくSSAに働きかけるよう強く要請する必要があります。そもそもWEPの適用廃止を含めて要請すべき所ですが、まずは現行のルールに従い国民年金のWEP適用排除を進める必要があります。ご承知の通り、日本年金機構は在外の皆様に国民年金の任意加入を推奨していますが、国民年金もWEPの対象となる事実を米国在住の日本人が知れば国民年金の加入促進をすることは難しいと言わざるを得ません。日本国民の老後の保障である年金資産を守るためにも早急な対応が求められます。

2.Handling Charge

日本の年金の振込先を米国の銀行口座に指定した場合、銀行でハンドリングチャージ(取扱手数料)として約15ドルから20ドルをとられます。日本の年金は偶数月に年6回振り込まれますので、年間20ドル×6回=120ドルの出費となります。65歳以降は老齢厚生年金と老齢基礎年金の2本立てとなり個別に振り込まれますので120ドルの出費は倍の240ドルとなります。

ご夫妻で受給しているご家庭は480ドルの負担となってしまいます。銀行でハンドリングチャージを課すのは止むをえないのですが、問題は日本から送金する場合、老齢厚生年金と老齢基礎年金を個別ではなく纏めて振り込めないかということです。これにより費用負担を半分にすることが出来ます。ハンドリングチャージの問題は米国にお住まいの年金受給者に留まらず、海外での日本の年金受給者共通の問題です。米国在住の時、当時の厚生省に改善を求めた時の回答は老齢厚生年金と老齢基礎年金とは法律が異なるので致し方ないとの回答でした。しかしながら日本に帰国後わかったことは、日本国内の受給者は1本に纏めて振り込まれているという事実です。年金は終生支払われ、更に遺族の方に引き継がれるものです。わずかな金額と言えども通算では大変な額になりますし、そもそも海外での年金受給者の年金額は日本にお住まいの方と比べれば小額の方が大半ですからその負担額は決して小さなものではありません。本件は、日本の行政サイドの改善努力で多くの方の出費を節約することが出来るわけです。

3.Form 6166

日米の年金は、共に所得として毎年申告する必要がありますが、その申告は日米租税条約により住んでいる国に対して行うこととなります。米国にお住まいの方は、日本の年金と言えども米国で申告することになります。しかしながら日本の年金を支給する際、一定の年金額以上の場合は所得税が源泉されます。そこで二重課税を避けるため予め“租税条約に関する届出書”を提出し、源泉税の徴収を止める仕組みになっています。届出書には、米国に住んでいることを証明するためIRSからForm6166を取り寄せ添付する必要があります。

一定の年金額以上の方は、日本の年金の受給申請時及びその後3年ごとに当該書類を提出する必要があります。問題はForm6166の取得に約1ヵ月半と85ドルが掛かりかつ申請手続きが面倒で分かり難いということです。

このForm6166は源泉税の対象者である一定の年金額以上の受給者のみならず全ての年金受給者に窓口でFormの提出を要求されていました。そこで私は一定の年金額以下の方は提出不要である旨のお知らせに力を入れてきました。その努力が実ったのかどうか分かりませんが、最近は一定の年金額未満の場合提出しない旨の「告知書」を提出すればよいように改善の傾向にはあります。そこで提案としてForm6166の代わりに総領事館で発行する「在留証明(日本国籍の方)」又は「宣誓供述書・Affidavit(米国籍の方)」で代替できないかということです。在留証明は年金の手続きのためであれば無料ですし、在留証明は取得手続きも簡単で2回目以降は郵送で取得することも出来ます。Affidavitも簡易に安く取得できます。

以上3つのハザードをご説明いたしましたが、年金支給は終生継続されるものであり、生活の糧となるものです。年金額の無駄な減額をストップさせるためにも、改善に向けて皆様のご意見をお待ちしています。